ヤンバルクイナ
やんばるの森のみに生息する固有種

- 漢字表記
- 山原水鶏
- 沖縄での呼称
- アガチー
- 英語名
- Okinawa rail
- 学名
- Hypotaenidia okinawae
- 分類
- ツル目クイナ科
- 渡り区分
- 留鳥
- 体長
- 35cm (キジバトよりやや大きい)
- レッドリスト
- 絶滅危惧IA類(CR)
月別の遭遇しやすさ(個人の経験ベース)
全国でも沖縄本島北部のやんばるの森のみに生息する固有種。
同じ、固有種であるノグチゲラに比べると生息数は多いものの、藪の中に隠れていて、見つけてもささっと走って行くので見かけにくい。
私もやんばるに10回以上訪れてやっと見ることができました。


ノグチゲラとヤンバルクイナの比較
どちらも固有種として有名ですが、細かな点に違いがあります。主に保全の観点からまとめてみました。
ヤンバルクイナが有名ではありますが、ノグチゲラの方が希少性という観点ではやや高い評価を受けています。
ノグチゲラ | ヤンバルクイナ | |
---|---|---|
生息地 | 沖縄本島北部(やんばる)の森林 | 沖縄本島北部(やんばる)の森林・草地・藪 |
生息数 | 約400~500羽 | 約1,500~2,000羽 |
環境省レッドリスト | 絶滅危惧IA類(最も危険) | 絶滅危惧IA類(最も危険) |
IUCNレッドリスト | EN(絶滅危惧種) | EN(絶滅危惧種) |
天然記念物 | 国指定・特別天然記念物(1977年) | 国指定・天然記念物(1982年) |
保護法上の位置づけ | 国内希少野生動植物種、種の保存法の保護対象 | 国内希少野生動植物種、種の保存法の保護対象 |
県鳥 | 沖縄県の県鳥 | (県鳥ではない) |
観察しやすさ | 昼行性(特に朝・夕方活発)で、樹上にいるのとドラミングや鳴き声で位置で見つけやすい | 昼行性だが警戒心が強く、地上性で藪の中に隠れるているので見つけにくい |
固有性・希少性 | キツツキ科ノグチゲラ属唯一の種 | クイナ科ヤンバルクイナ属の中の1種(他にも複数種あり) |
進化の独自性 | 原始的な特徴を持つ「生きた化石的存在」他のキツツキとは分岐が深い | 飛べなくなったのは独自進化ただしクイナ類の飛翔退化は世界的にも複数例あり |
ヤンバルクイナの歴史
ヤンバルクイナの個体数は、生息域であるやんばる地域の開発と保全に強く影響されています。その観点も含め以下にまとめました。
年代 | 主な出来事 |
---|---|
1887年 | ノグチゲラ正式に記載発表(この時点でヤンバルクイナはまだ未発見) |
1910年 | 動物学者の渡瀬庄三郎によって、フイリマングースがネズミとハブの駆除のため沖縄に持ち込まれる |
1945年 | 沖縄戦開戦、同年に終結。 |
1959年 | 森林伐採が県全体で行われ、やんばるでも「山稼ぎ」として過伐・乱伐が発生。年間生産量25.8万㎥のピークを迎え、最大の森林荒廃時期と推測される |
1964年 | 鳥類録音家の蒲谷鶴彦氏が国頭村西銘岳で正体不明の奇妙な鳥の鳴き声を録音(当時「変な声」とメモされ、後にヤンバルクイナの声と判明) |
1971年 | やんばるに、普久川ダム、福地ダム、新川ダム、安波ダム、辺野喜ダムの5つのダムの着工開始し、12年間かけて完成 |
1973年 | 野鳥愛好家の大塚豊氏が与那覇岳でヤンバルクイナの死骸を拾得(当時は未確認種で後にヤンバルクイナと判明) |
1975年 | 写真家の儀間朝治氏が山原で成鳥を撮影(当時は未確認種で後にヤンバルクイナと判明) |
1977年 | 大国林道の建築開始、およそ17年間で全長35.5kmを敷設 |
1978年 | 山階鳥類研究所の研究者が沖縄島北部・与那覇岳で飛べないクイナらしき謎の鳥を初めて目撃した 。その後1980年まで複数回にわたり未確認のクイナ類を目撃 |
1981年 | 山階鳥研の特別調査チームが6月に幼鳥、7月に成鳥の捕獲に成功。形態調査の結果、学界で未知の新種と判明し、同年末に和名「ヤンバルクイナ」、学名 Rallus okinawae として新種記載が発表された 。同年、沖縄県指定の天然記念物に指定 |
1982年 | 国の天然記念物(文化庁)に指定。環境庁により「特殊鳥類」に指定され保護増殖の管理下に置かれた |
1983年 | 環境庁がヤンバルクイナの分布域と生息状況を初めて調査(特殊鳥類の生息調査) |
1984年 | ヤンバルクイナの巣が初めて発見される |
1985年 | 環境庁の調査で推定個体数約1800羽と報告される |
1987年 | 沖縄開催の国民体育大会「海邦国体」で、ヤンバルクイナがマスコットキャラクター「クィクィ」のモデルとして採用される |
1991年 | レッドデータブックでヤンバルクイナが絶滅危惧種(危急種)に初めて選定された |
1993年 | 種の保存法施行に伴い、「国内希少野生動植物種」に指定され、国内法での保護対象となる |
1995年 | 山階鳥類研究所が沖縄県宜野湾市でヤンバルクイナの保護対策に関する初のシンポジウムを開催し、行政・研究者・地域関係者が情報共有を図った |
1999年 | 環境庁が沖縄島北部に「やんばる野生生物保護センター」(通称ウフギー自然館)を開設 |
2000年 | 沖縄県が北部地域でマングースの本格的な捕獲事業を開始し、外来捕食者の駆除に乗り出す |
2001年 | 山階鳥研のDNA分析により、ヤンバルクイナがノネコに捕食されていることが判明。 |
2002年 | 環境省もマングースの捕獲事業に着手し、対策を強化 。国頭村安田区ではノネコの適正飼養に関する規則が施行される 。また獣医師らによる「ヤンバルクイナたちを守る会」が発足し、保護活動の体制が整えられた 。環境省レッドリストでは絶滅危惧IB類に位置づけられた 。東海岸地域でも生息域の南限がさらに北上していることが確認された |
2003年 | 「世界自然遺産候補地に関する検討会」において、奄美群島を含む琉球諸島が世界自然遺産候補地として選定される |
2004年 | やんばる地域でヤンバルクイナの交通事故(ロードキル)防止に関する関係機関連絡会議を設置 。国頭村議会が語呂合わせにより9月17日を「ヤンバルクイナの日」と定め、地域ぐるみで保護を呼びかける 。環境省などがヤンバルクイナ保護増殖事業計画を策定し、本格的な保護プロジェクトが始動 |
2005年 | 国頭村・大宜味村・東村の3村で「ノネコの愛護及び管理に関する条例」が施行され、野良猫の適正管理が図られる 。NPO法人どうぶつたちの病院沖縄が「ヤンバルクイナ救命救急センター」を設置し、負傷個体の救護体制が整う 。沖縄県がマングース侵入防止のため北上防止柵を設置 |
2005年 | 東村ではこの頃までにヤンバルクイナの生息がほぼ見られなくなり、連続的な生息域は国頭村内に限られる状況となった 。危機感が高まり、翌年以降さらなる保護対策が取られることになる。 |
2006年 | 推定個体数は約700羽まで減少。環境省レッドリストのカテゴリーが最も危険度の高い「絶滅危惧IA類(CR)」に引き上げる |
2007年 | NPO法人どうぶつたちの病院沖縄が初めて飼育下繁殖に成功。同年、年間ロードキル件数が23件に上り国頭村が非常事態宣言を発出 。その後の対策により推定個体数が1000羽程度まで回復したと報告された |
2009年 | 環境省によるヤンバルクイナ専用の飼育・繁殖施設が一部完成し、飼育下繁殖事業の準備が整う |
2010年 | 環境省の飼育・繁殖施設が全面完成して本格的な繁殖プロジェクトを開始さ。また年間ロードキル件数が30件を超え、再度非常事態宣言が出された |
2011年 | ヤンバルクイナ発見30周年を迎え、地元で記念イベント「クイナの日まつり」が開催された |
2012年 | 環境省ヤンバルクイナ飼育繁殖施設で3月に初めて自然孵化による繁殖成功(ヒナ4羽を確認) |
2013年 | マングース防除の成果が現れ、推定生息数が約1500羽前後にまで回復 。近年生息が確認できなかった大宜味村北部の山中や東村高江でもヤンバルクイナの生息が再確認され、分布域が再拡大 |
2016年 | 沖縄島北部地域が「やんばる国立公園」に指定され、ヤンバルクイナの主要生息域が国立公園として保全対象になる |
2021年 | 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」がユネスコ世界自然遺産に正式登録。ヤンバルクイナの生息するやんばるの森が世界的に価値ある自然として認められる |
2023年 | 沖縄県による自動撮影カメラにより、名護市源河の山中で初めてヤンバルクイナの姿が確認された(同種の生息域がさらに南へ拡大した証拠) |
2024年 | ヤンバルクイナの羽毛から新種の寄生ダニが発見され、「ヤンバルクイナウモウダニ」(Metanalges agachi)として記載報告された |
参考
- 公益財団法人 山階鳥類研究所「ヤンバルクイナの歴史」
- 沖縄奄美自然環境事務所「平成23年度のヤンバルクイナ飼育下繁殖の成功について」
- ウフギー自然館「やんばるの自然を守る」
- 芝正已「戦後沖縄の森林・林業の粗描-残滓の森から普遍価値の森へ-」