沖縄野鳥
沖縄野鳥

ヤンバルクイナ

やんばるの森のみに生息する固有種

全国でも沖縄本島北部のやんばるの森のみに生息する固有種。

同じ、固有種であるノグチゲラに比べると生息数は多いものの、藪の中に隠れていて、見つけてもささっと走って行くので見かけにくい。
私もやんばるに10回以上訪れてやっと見ることができました。

よく見る前傾姿勢のヤンバルクイナ - 2025.07.29 森(沖縄県国頭村)
よく見る前傾姿勢のヤンバルクイナ - 2025.07.29 森(沖縄県国頭村)
毛繕いするヤンバルクイナ - 2025.07.29 森(沖縄県国頭村)
毛繕いするヤンバルクイナ - 2025.07.29 森(沖縄県国頭村)

ノグチゲラとヤンバルクイナの比較

どちらも固有種として有名ですが、細かな点に違いがあります。主に保全の観点からまとめてみました。
ヤンバルクイナが有名ではありますが、ノグチゲラの方が希少性という観点ではやや高い評価を受けています。

ノグチゲラ

ヤンバルクイナ

生息地

沖縄本島北部(やんばる)の森林

沖縄本島北部(やんばる)の森林・草地・藪

生息数

約400~500羽

約1,500~2,000羽

環境省レッドリスト

絶滅危惧IA類(最も危険)

絶滅危惧IA類(最も危険)

IUCNレッドリスト

EN(絶滅危惧種)
※2024にCRから引き下げ

EN(絶滅危惧種)

天然記念物

国指定・特別天然記念物(1977年)

国指定・天然記念物(1982年)

保護法上の位置づけ

国内希少野生動植物種、種の保存法の保護対象

国内希少野生動植物種、種の保存法の保護対象

県鳥

沖縄県の県鳥

(県鳥ではない)

観察しやすさ

昼行性(特に朝・夕方活発)で、樹上にいるのとドラミングや鳴き声で位置で見つけやすい

昼行性だが警戒心が強く、地上性で藪の中に隠れるているので見つけにくい

固有性・希少性

キツツキ科ノグチゲラ属唯一の種
1属1種の固有種(属レベルで世界唯一)のため極めて高い固有性

クイナ科ヤンバルクイナ属の中の1種(他にも複数種あり)
属は共有で近縁種あり

進化の独自性

原始的な特徴を持つ「生きた化石的存在」他のキツツキとは分岐が深い

飛べなくなったのは独自進化ただしクイナ類の飛翔退化は世界的にも複数例あり

ヤンバルクイナの歴史

ヤンバルクイナの個体数は、生息域であるやんばる地域の開発と保全に強く影響されています。その観点も含め以下にまとめました。

年代

主な出来事

1887年

ノグチゲラ正式に記載発表(この時点でヤンバルクイナはまだ未発見)

1910年

動物学者の渡瀬庄三郎によって、フイリマングースがネズミとハブの駆除のため沖縄に持ち込まれる

1945年

沖縄戦開戦、同年に終結。
戦中戦後の大規模な森林開発により生息地が激減

1959年

森林伐採が県全体で行われ、やんばるでも「山稼ぎ」として過伐・乱伐が発生。年間生産量25.8万㎥のピークを迎え、最大の森林荒廃時期と推測される

1964年

鳥類録音家の蒲谷鶴彦氏が国頭村西銘岳で正体不明の奇妙な鳥の鳴き声を録音(当時「変な声」とメモされ、後にヤンバルクイナの声と判明)

1971年

やんばるに、普久川ダム、福地ダム、新川ダム、安波ダム、辺野喜ダムの5つのダムの着工開始し、12年間かけて完成

1973年

野鳥愛好家の大塚豊氏が与那覇岳でヤンバルクイナの死骸を拾得(当時は未確認種で後にヤンバルクイナと判明)

1975年

写真家の儀間朝治氏が山原で成鳥を撮影(当時は未確認種で後にヤンバルクイナと判明)

1977年

大国林道の建築開始、およそ17年間で全長35.5kmを敷設

1978年

山階鳥類研究所の研究者が沖縄島北部・与那覇岳で飛べないクイナらしき謎の鳥を初めて目撃した 。その後1980年まで複数回にわたり未確認のクイナ類を目撃

1981年

山階鳥研の特別調査チームが6月に幼鳥、7月に成鳥の捕獲に成功。形態調査の結果、学界で未知の新種と判明し、同年末に和名「ヤンバルクイナ」、学名 Rallus okinawae として新種記載が発表された 。同年、沖縄県指定の天然記念物に指定

1982年

国の天然記念物(文化庁)に指定。環境庁により「特殊鳥類」に指定され保護増殖の管理下に置かれた

1983年

環境庁がヤンバルクイナの分布域と生息状況を初めて調査(特殊鳥類の生息調査)

1984年

ヤンバルクイナの巣が初めて発見される

1985年

環境庁の調査で推定個体数約1800羽と報告される

1987年

沖縄開催の国民体育大会「海邦国体」で、ヤンバルクイナがマスコットキャラクター「クィクィ」のモデルとして採用される

1991年

レッドデータブックでヤンバルクイナが絶滅危惧種(危急種)に初めて選定された

1993年

種の保存法施行に伴い、「国内希少野生動植物種」に指定され、国内法での保護対象となる

1995年

山階鳥類研究所が沖縄県宜野湾市でヤンバルクイナの保護対策に関する初のシンポジウムを開催し、行政・研究者・地域関係者が情報共有を図った

1999年

環境庁が沖縄島北部に「やんばる野生生物保護センター」(通称ウフギー自然館)を開設

2000年

沖縄県が北部地域でマングースの本格的な捕獲事業を開始し、外来捕食者の駆除に乗り出す

2001年

山階鳥研のDNA分析により、ヤンバルクイナがノネコに捕食されていることが判明。
同年、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックで絶滅危惧種に選定される 。さらに調査で生息域南限が15年間で約10km北上し、生息数は約1220羽と推定された

2002年

環境省もマングースの捕獲事業に着手し、対策を強化 。国頭村安田区ではノネコの適正飼養に関する規則が施行される 。また獣医師らによる「ヤンバルクイナたちを守る会」が発足し、保護活動の体制が整えられた 。環境省レッドリストでは絶滅危惧IB類に位置づけられた 。東海岸地域でも生息域の南限がさらに北上していることが確認された

2003年

「世界自然遺産候補地に関する検討会」において、奄美群島を含む琉球諸島が世界自然遺産候補地として選定される

2004年

やんばる地域でヤンバルクイナの交通事故(ロードキル)防止に関する関係機関連絡会議を設置 。国頭村議会が語呂合わせにより9月17日を「ヤンバルクイナの日」と定め、地域ぐるみで保護を呼びかける 。環境省などがヤンバルクイナ保護増殖事業計画を策定し、本格的な保護プロジェクトが始動

2005年

国頭村・大宜味村・東村の3村で「ノネコの愛護及び管理に関する条例」が施行され、野良猫の適正管理が図られる 。NPO法人どうぶつたちの病院沖縄が「ヤンバルクイナ救命救急センター」を設置し、負傷個体の救護体制が整う 。沖縄県がマングース侵入防止のため北上防止柵を設置

2005年

東村ではこの頃までにヤンバルクイナの生息がほぼ見られなくなり、連続的な生息域は国頭村内に限られる状況となった 。危機感が高まり、翌年以降さらなる保護対策が取られることになる。

2006年

推定個体数は約700羽まで減少。環境省レッドリストのカテゴリーが最も危険度の高い「絶滅危惧IA類(CR)」に引き上げる

2007年

NPO法人どうぶつたちの病院沖縄が初めて飼育下繁殖に成功。同年、年間ロードキル件数が23件に上り国頭村が非常事態宣言を発出 。その後の対策により推定個体数が1000羽程度まで回復したと報告された

2009年

環境省によるヤンバルクイナ専用の飼育・繁殖施設が一部完成し、飼育下繁殖事業の準備が整う
マングースの捕獲件数が初めて減少傾向を見せ、マングースの分布拡大の抑制に成功する

2010年

環境省の飼育・繁殖施設が全面完成して本格的な繁殖プロジェクトを開始さ。また年間ロードキル件数が30件を超え、再度非常事態宣言が出された

2011年

ヤンバルクイナ発見30周年を迎え、地元で記念イベント「クイナの日まつり」が開催された

2012年

環境省ヤンバルクイナ飼育繁殖施設で3月に初めて自然孵化による繁殖成功(ヒナ4羽を確認)

2013年

マングース防除の成果が現れ、推定生息数が約1500羽前後にまで回復 。近年生息が確認できなかった大宜味村北部の山中や東村高江でもヤンバルクイナの生息が再確認され、分布域が再拡大

2016年

沖縄島北部地域が「やんばる国立公園」に指定され、ヤンバルクイナの主要生息域が国立公園として保全対象になる

2021年

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」がユネスコ世界自然遺産に正式登録。ヤンバルクイナの生息するやんばるの森が世界的に価値ある自然として認められる

2023年

沖縄県による自動撮影カメラにより、名護市源河の山中で初めてヤンバルクイナの姿が確認された(同種の生息域がさらに南へ拡大した証拠)

2024年

ヤンバルクイナの羽毛から新種の寄生ダニが発見され、「ヤンバルクイナウモウダニ」(Metanalges agachi)として記載報告された

参考

ツル目の仲間