WRP System(Wolfe–Ryder–Pyle System)
換羽サイクルに基づく年齢・羽衣の記載方法

これまでシギチの羽衣を表す時、「夏羽」「冬羽」という表現をずっと使ってきました。ある日、沖縄のバーダーさんから「WRPシステムの方がいいよ」という話を聞いて、このサイトでも少しずつ取り入れるようにしています。

ただ、日本語でまとまった情報がなかったので、自分用も兼ねて記事にしてみました。公式の和訳があるわけではないので、日本語の表現については私が考えたものが多々あります。おかしい部分などあれば、ぜひ教えていただけると助かります。なお、「基羽」「代羽」「発達羽」の訳語については、日本鳥類標識協会大会2024年度(第38回)東京大会における細谷淳氏の発表を参考にしています。また、「決定羽」の訳語については、茂田良光氏による『形態と識別17 換羽と羽衣,および齢―正確な識別のための基礎知識』(BIRDER 1993年7巻3号)を参考にしています。

なぜWRPシステムを使うのか?

野鳥観察をしていると、「夏羽」「冬羽」という言葉をよく目にします。季節と羽衣が対応しているので直感的にわかりやすいし、本などでも当たり前のように使われています。

ただ、この言葉は体感と違うことが多々あります。たとえばシロチドリ。「夏羽」と呼ばれているのに、3月には、赤く染まった個体を見かけます。
また、南半球では季節が逆になるので、「夏羽」という言葉がそのままでは通じません。私の住む沖縄でも、1月に桜が咲いたり、4月に海開きしたりと、沖縄県外と季節感が少しずれていて、季節と羽衣がうまく噛み合わないことがあります。

そのような違和感を解消してくれるのがWRPシステムです。「夏」や「冬」といった季節で羽衣を呼ぶのをやめて、換羽のサイクルそのものにコードを付けるしくみです。なので、どこで観察しても、どの季節に見ても、どの国でも同じ基準で羽衣の状態を記録できます。

補足しておくと、WRPシステムの本来の目的は羽衣の表現だけではなく、従来の北米式年齢システムが抱えていた問題の解決にあります。従来のシステムでは「1月1日になった瞬間に年齢コードが変わる」という仕組みだったため、たとえば2024年12月31日生まれと2025年1月1日生まれの個体は実際にはほぼ同じ齢なのに、年齢コードだけが異なるという状況が生まれていました。WRPシステムはこの暦に依存した問題を解消するために考案されたシステムです。

WRPシステムとは

WRPシステムについて

WRPシステムは、Jared Wolfe、Thomas B. Ryder、Peter Pyleらの研究者が提唱した、換羽サイクルに基づく年齢・羽衣の記載システムです。鳥の状態を3文字のコードで表すのが特徴で、その3文字がそれぞれ「今この鳥はライフサイクルのどこにいるか」を示しています。
例えば、「第1回冬羽」と呼んでいた状態は「FCF(First-cycle Formative plumage)」と記載します。

1文字目:サイクル(年齢)

WRPシステムサイクル

1文字目は「サイクル(年齢)」を表します。孵化後最初の換羽周期は F(First cycle)、次の周期は S(Second cycle)、その次は T(Third cycle)となり、さらに続く場合は 4、5、6…… のように数字で表記されます。そして、種ごとに決まった回数の換羽周期を経て、安定した換羽パターンに達すると、以降は D(Definitive cycle・決定サイクル)となります。また、成鳥羽に達した後、年齢が特定できない場合にも D を使います。

コード

名称

意味

F

First cycle

第一サイクル

S

Second cycle

第二サイクル

T

Third cycle

第三サイクル

4(5, 6, 7, 8 ...)

Fourth cycle(以降番号)

第四サイクル

D

Definitive

決定サイクル(成鳥)

2文字目:換羽の状態

WRPシステム換羽

換羽の状態を表します。P(Pre)は次の羽衣へ向けて換羽が進行中であることを示し、体羽や風切羽が抜け替わっている途中の状態です。C(Cycle)は換羽しておらず、ある羽衣が完成した状態を保持していることを指します。つまり3文字目に書かれた羽衣へ変わっていく途中ならP、その羽衣が完成していればCとなります。

コード

名称

意味

P

Pre

換羽中

C

Cycle

換羽完了

U

Unknown

不明

3文字目:羽衣

WRPシステムサイクル

羽衣を表します。J(Juvenile)は巣立ち後に最初に生える幼羽、F(Formative)は多くの種で幼羽の直後に生える発達羽で第1サイクルにのみ現れます。B(Basic)は基羽で、いわゆる冬羽に近い概念です。A(Alternate)は代羽で、いわゆる夏羽に近い概念です。

コード

名称

意味

J

Juvenile

幼羽

F

Formative

発達羽(いわゆる第一回冬羽)

A

Alternate

代羽(いわゆる夏羽)

B

Basic

基羽(いわゆる冬羽)

X

Auxiliary formative

第一回羽衣中の追加羽衣

S

Supplemental

基羽・代羽とは別の特殊羽衣

U

Unknown

不明

WRPコード一覧

上記の3の文字を組み合わせることで、年齢・換羽中かどうか・羽衣を表現することができます。

コードイメージ名称文字の意味一般的な表記
第一サイクル幼羽(First-cycle Juvenile)
FPJFirst Prejuvenile molt
第一回幼羽前換羽
F=First
P=Pre
J=Juvenile
幼羽への換羽中
FCJFirst Juvenile plumage
第一回幼羽
F=First
C=Cycle
J=Juvenile
幼羽(J)
第一サイクル発達羽(First-cycle Formative)
FPFFirst Preformative molt
第一回発達羽前換羽
F=First
P=Pre
F=Formative
第一回冬羽への換羽中
FCFFirst Formative plumage
第一回発達羽
F=First
C=Cycle
F=Formative
第一回冬羽(1W)
第一サイクル代羽(First-cycle Alternate)
FPAFirst Prealternate molt
第一回代羽前換羽
F=First
P=Pre
A=Alternate
第一回夏羽への換羽中
FCAFirst Alternate plumage
第一回代羽
F=First
C=Cycle
A=Alternate
第一回夏羽(1S)
第二サイクル(Second-cycle)
SPBSecond Prebasic molt
第二回基羽前換羽
S=Second
P=Pre
B=Basic
第二回冬羽への換羽中
SCBSecond Basic plumage
第二回基羽
S=Second
C=Cycle
B=Basic
第二回冬羽(2W)
以降、Cycle(年齢)が分かれば SPA → SCA → TPB → TCB → TPA → TCA → 4PB → 4CB → 4PA → 4CA → 5PB → 5CB → ...
決定サイクル(Definitive-cycle)
DCBDefinitive Basic plumage
決定基羽
D=Definitive
C=Cycle
B=Basic
成鳥冬羽(Ad W)
DPADefinitive Prealternate molt
決定代羽前換羽
D=Definitive
P=Pre
A=Alternate
成鳥夏羽への換羽中
DCADefinitive Alternate plumage
決定代羽
D=Definitive
C=Cycle
A=Alternate
成鳥夏羽(Ad S)
DPBDefinitive Prebasic molt
決定基羽前換羽
D=Definitive
P=Pre
B=Basic
成鳥冬羽への換羽中

まとめ

最初は3文字のアルファベットを見ても「よくわからない...」という感じですが、構造さえわかってしまえばあとはシンプルです。1文字目でサイクル、2文字目で換羽中かどうか、3文字目で羽衣の種類。この3つを組み合わせているだけなので、慣れると自然と読めるようになってきます。「夏羽」「冬羽」という言葉に違和感を覚えるようになってきたら、WRPを使ってみるのがおすすめです。

参考

Introduction to the Wolfe-Ryder-Pyle (WRP) System

細谷 淳(2024)「次の100年を見据えて ~換羽や年齢の新しい記録方法について~」『日本鳥類標識協会大会2024年度(第38回)東京大会』日本鳥類標識協会

茂田良光(1993)「形態と識別17 換羽と羽衣, および齢―正確な識別のための基礎知識[2]」『BIRDER』7(3):36–40

謝辞

本記事の執筆にあたり、参考文献をご紹介いただいたほか、用語の統一性についても貴重なアドバイスをいただいた、しゅーさん(@h2c2o4_2h2o)に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。