WRP System(Wolfe–Ryder–Pyle System)
換羽サイクルに基づく年齢・羽衣の記載方法
これまでシギチの羽衣を表す時、「夏羽」「冬羽」という表現をずっと使ってきました。ある日、沖縄のバーダーさんから「WRPシステムの方がいいよ」という話を聞いて、このサイトでも少しずつ取り入れるようにしています。
ただ、日本語でまとまった情報がなかったので、自分用も兼ねて記事にしてみました。公式の和訳があるわけではないので、日本語の表現については私が考えたものが多々あります。おかしいところがあれば、教えていただけると助かります。
なぜWRPシステムを使うのか?
野鳥観察をしていると、「夏羽」「冬羽」という言葉をよく目にします。季節と羽衣が対応しているので直感的にわかりやすいし、本などでも当たり前のように使われています。
ただ、この言葉は体感と違うことが多々あります。たとえばシロチドリ。「夏羽」と呼ばれているのに、3月には、赤く染まった個体を見かけます。
また、南半球では季節が逆になるので、「夏羽」という言葉がそのままでは通じません。私の住む沖縄でも、1月に桜が咲いたり、4月に海開きしたりと、沖縄県外と季節感が少しずれていて、季節と羽衣がうまく噛み合わないことがあります。
そのような違和感を解消してくれるのがWRPシステムです。「夏」や「冬」といった季節で羽衣を呼ぶのをやめて、換羽のサイクルそのものにコードを付けるしくみです。なので、どこで観察しても、どの季節に見ても、どの国でも同じ基準で羽衣の状態を記録できます。
補足しておくと、WRPシステムの本来の目的は羽衣の表現だけではなく、従来の北米式年齢システムが抱えていた問題の解決にあります。従来のシステムでは「1月1日になった瞬間に年齢コードが変わる」という仕組みだったため、たとえば2024年12月31日生まれと2025年1月1日生まれの個体は実際にはほぼ同じ齢なのに、年齢コードだけが異なるという状況が生まれていました。WRPシステムはこの暦に依存した問題を解消するために考案されたシステムです。
WRPシステムとは

WRPシステムは、Jared Wolfe、Thomas B. Ryder、Peter Pyleらの研究者が提唱した、換羽サイクルに基づく年齢・羽衣の記載システムです。鳥の状態を3文字のコードで表すのが特徴で、その3文字がそれぞれ「今この鳥はライフサイクルのどこにいるか」を示しています。
例えば、「第1回冬羽」と呼んでいた状態は「FCF(First-cycle Formative plumage)」と記載します。
1文字目:サイクル(年齢)

1文字目は「サイクル(年齢)」を表します。孵化後最初の換羽周期は F(First cycle)、次の周期は S(Second cycle)、その次は T(Third cycle)となり、さらに続く場合は 4、5、6…… のように数字で表記されます。そして、種ごとに決まった回数の換羽周期を経て、安定した換羽パターンに達すると、以降は D(Definitive cycle・確定サイクル)となります。また、成鳥羽に達した後、年齢が特定できない場合にも D を使います。
コード | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
F | First cycle | 第一サイクル |
S | Second cycle | 第二サイクル |
T | Third cycle | 第三サイクル |
4(5, 6, 7, 8 ...) | Fourth cycle(以降番号) | 第四サイクル |
D | Definitive | 確定サイクル(成鳥) |
2文字目:換羽の状態

換羽の状態を表します。P(Pre)は次の羽衣へ向けて換羽が進行中であることを示し、体羽や風切羽が抜け替わっている途中の状態です。C(Cycle)は換羽しておらず、ある羽衣が完成した状態を保持していることを指します。つまり3文字目に書かれた羽衣へ変わっていく途中ならP、その羽衣が完成していればCとなります。
コード | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
P | Pre | 換羽中 |
C | Cycle | 換羽中ではない |
U | Unknown | 不明 |
3文字目:羽衣

羽衣を表します。J(Juvenile)は巣立ち後に最初に生える幼羽、F(Formative)は多くの種で幼羽の直後に生える形成羽で第1サイクルにのみ現れます。B(Basic)は基本羽で、いわゆる冬羽に近い概念です。A(Alternate)は生殖羽で、いわゆる夏羽に近い概念です。
コード | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
J | Juvenile | 幼羽 |
F | Formative | 形成羽(いわゆる第一回冬羽) |
A | Alternate | 生殖羽(いわゆる夏羽) |
B | Basic | 基本羽(いわゆる冬羽) |
X | Auxiliary formative | 第一回羽衣中の追加羽衣 |
S | Supplemental | 基本羽・生殖羽とは別の特殊羽衣 |
U | Unknown | 不明 |
WRPコード一覧
上記の3の文字を組み合わせることで、年齢・換羽中かどうか・羽衣を表現することができます。
| コード | イメージ | 名称 | 文字の意味 | 一般的な表記 |
|---|---|---|---|---|
| 第一サイクル幼羽(First Cycle Juvenile) | ||||
| FPJ | ![]() | First Prejuvenile molt 第一回幼羽前換羽 | F=First P=Pre J=Juvenile | 幼羽への換羽中 |
| FCJ | ![]() | First Juvenile plumage 第一回幼羽 | F=First C=Cycle J=Juvenile | 幼羽 |
| 第一サイクル形成羽(First Cycle Formative) | ||||
| FPF | ![]() | First Preformative molt 第一回形成羽前換羽 | F=First P=Pre F=Formative | 第一回冬羽への換羽中 |
| FCF | ![]() | First Formative plumage 第一回形成羽 | F=First C=Cycle F=Formative | 第一回冬羽(1W) |
| 第一サイクル生殖羽(First Cycle Alternate) | ||||
| FPA | ![]() | First Prealternate molt 第一回生殖羽前換羽 | F=First P=Pre A=Alternate | 第一回夏羽への換羽中 |
| FCA | ![]() | First Alternate plumage 第一回生殖羽 | F=First C=Cycle A=Alternate | 第一回夏羽(1S) |
| 第二サイクル(Second Cycle) | ||||
| SPB | ![]() | Second Prebasic molt 第二回基本羽前換羽 | S=Second P=Pre B=Basic | 第二回冬羽への換羽中 |
| SCB | ![]() | Second Basic plumage 第二回基本羽 | S=Second C=Cycle B=Basic | 第二回冬羽(2W) |
| 以降、Cycle(年齢)が分かれば SPA → SCA → TPB → TCB → TPA → TCA → 4PB → 4CB → 4PA → 4CA → 5PB → 5CB → ... | ||||
| 確定サイクル(Definitive Cycle) | ||||
| DCB | ![]() | Definitive Basic plumage 確定基本羽 | D=Definitive C=Cycle B=Basic | 成鳥冬羽(Ad W) |
| DPA | ![]() | Definitive Prealternate molt 確定生殖羽前換羽 | D=Definitive P=Pre A=Alternate | 成鳥夏羽への換羽中 |
| DCA | ![]() | Definitive Alternate plumage 確定生殖羽 | D=Definitive C=Cycle A=Alternate | 成鳥夏羽(Ad S) |
| DPB | ![]() | Definitive Prebasic molt 確定基本羽前換羽 | D=Definitive P=Pre B=Basic | 成鳥冬羽への換羽中 |
まとめ
最初は3文字のアルファベットを見ても「よくわからない...」という感じですが、構造さえわかってしまえばあとはシンプルです。1文字目でサイクル、2文字目で換羽中かどうか、3文字目で羽衣の種類。この3つを組み合わせているだけなので、慣れると自然と読めるようになってきます。「夏羽」「冬羽」という言葉に違和感を覚えるようになってきたら、WRPを使ってみるのがおすすめです。





